A010-ジャーナリスト

みごと東京都写真美術館のリニュアルオープン、『杉本博司 ロスト・ヒューマン』はおどろきだ

 東京都美術館が、約2年間の改装で、2016年9月3日から、リニュアルオープンする。同館は発足から21年目である。
『TOP MUSEUM』と名付けられた。9月1日、記者に公開された。荒木誠副館長がパワーポイントで、新たな施設を説明した。コンセプトは「また、訪ねたい、誰かに紹介したい」であり、美術館専用LED照明、可動式の展示壁です、と数々の特徴を説明した。

「TOPとはちょって恥ずかしいのですが」と同館事業企画課長の笠原美智子さんが、壇上で照れていた。「TOKYO PHOTO~、そういう意味か」と納得できた。そして、今後の展示スケジュールを発表した。


 内覧会の『杉本博司 ロスト・ヒューマン』では、まず杉本さんの説明から入った。杉本さんはニューヨークを拠点に活動されているアーティストである。

 サブタイトルが『今日 世界は死んだ もしかすると昨日かもしれない』で、33作品を展示しているという。文学的にも、解ったような、判らないような、すんなり頭に入ってきにくい。 
 

「真新しくなった美術館なのに、作品が古くて、ぶち壊しのようですが……」という前書きが、杉本さんの口から何度もでてきた。
 それすら、意味合いが分からず、記者からも突っ込んだ質問は出なかった。


 同館の3階展示場に入って納得した。

 展示壁が、古く錆びたトタン張りだ。

「リニュアルの第1回の展示が、古くて、ぶち壊しのようですが~」という意味も理解できたし、これを企画した東京都写真美術館の大胆さにも、おどろいた。

「同館の企画段階では、きっとリスクの問題も出ただろうな」

 その意外性からしても、先頭打者、初球を一発、場外ホームランを放ったようだ。

 


 トタン板ののぞき窓から、艶めかしい女体が見える。

 『今日 世界は死んだ もしかすると昨日かもしれないけど、私は男に愛されるためだけに生まれてきました。中略、~老人が、私を最後に愛してくれた人でした。でも、ごめんなさい。私は不妊症。そして、この世に、人は生まれなくなったのです』

 1枚のわら半紙に手書きされた内容は、33作品とも読ませる。そうか、こうして人類が消えた、と杉本さんは展開しているのだ、と観る側を納得させる。

 


『文明が終わる33のシナリオを自身の作品や蒐集した古美術、化石、書籍、歴史的な資料などから構成しました』と杉本さんは語る。

『(この展示会をみれば)、私たちが作り上げてきた文明や認識、現代社会を再考せざるを得なくなるでしょう」と語る。

 
『地球の歴史からみれば、人間なんて、氷河期の後のわずかな時間に存在していた生き物ですよ』
 という言葉が強く印象に残ったし、展示会を見れば、十二分に説得力があった。


  文学にでも求められる、人間とは何か、文明とは何か、社会とは何か、歴史とは何か、永遠のテーマが33さんのシナリオを通して、ものの見事に表現されている。

 底流には、過剰人口と、人間の起こす戦争という内在されたふたつのテーマがよみとれた。


 これら33点は、私が過去に観た数々の展示会場で最も感動したものだった。老若男女を問わず、いちどは観ておかれるとよい。


 2階では、「廃墟劇場」 が展示されている。京都の「三十三間堂」の千手観音を幻想的な空間として表現している。

「平安時代の乱世の末法を現代に再現してみました。三十三、という数字、日本人は奇数が好きです。それはワビ、寂に通じています」
 杉本さんじしんは、その奇数にこだわると協調していた。


 私も、小説の作品タイトルには、かならず1、3、5、7文字の奇数をつかう。そこらは共通点を感じさせられた。

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