A040-寄稿・みんなの作品

【孔雀船100号 詩】  のどけからまし  望月苑巳

夜桜イラスト.jpgさくらは下を向いて咲く

そろりと

人に見上げてもらいたくて

静かに


ぼくの心から出ていってしまった人も

そろりと

咲いたことがありましたね


本郷三丁目駅の

クジラの目のような出口から

春も咲きました

うるうると目頭を押さえて

一歩、二歩、三歩

電車が散ってしまっても

つまづきながら咲きました


あれから長い時が

短い慟哭を越えてゆきましたね

けれど伊勢物語のように

春の心は のどけからまし

というわけにはいかなかったのです


夜になって

夜鬼がでしゃばって

さくらの枝がしなりました

きっと

そんな過去は折ってしまえと思ったのかも知れません


そろりと

地下鉄はぼくを呑み込んで

クジラになりました


*世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし 在原業平(伊勢物語八十二段)

PDF・縦書き のどけからまし.pdf


【関連情報】

 孔雀船は100号の記念号となりました。1971年に創刊されて40年以上の歴史がある詩誌です。

「孔雀船」頒価700円
  発行所 孔雀船詩社編集室
  発行責任者:望月苑巳

 〒185-0031
  東京都国分寺市富士本1-11-40
  TEL&FAX 042(577)0738

イラスト:Googleイラスト・フリーより

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