A040-寄稿・みんなの作品

【孔雀船98号 詩】うつぶせの春 望月苑巳

うつぶせの春がまたやってきた

顔を上げて見ることが出来ない

不条理に包まれた春だ

そこには上書きされた町がある

遠くに港を出てゆく漁船の幻

水平線には拳を振り上げた真っ黒い海坊主


岸壁でゆりかもめが歌っている

それを追う猫も

猫を追う子供らも

魔法のように

その日、消えた



すべては午後2時47分の魔法

上書きされる前の町を

もう忘れかかっているという自己嫌悪が

記憶の海に浮かぶ

もがく家並み

慈悲を忘れた神のいたずらかとも思う

などとはいうまい

そんな薄っぺらい形容詞では言い表せないのだから


人知を超えた歴史のデザイン変更が終わり

上書きされた町には

猫もゆりかもめも

子供らの笑顔も戻ってはこない

それらは偽りの幻の町だから

まだ何も終わっていない

まだ何も始まっていない

うつぶせの春がまたやってきた

PDF縦書き うつぶせの春・望月苑・

【関連情報】

 孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。

「孔雀船」頒価700円
  発行所 孔雀船詩社編集室
  発行責任者:望月苑巳

 〒185-0031
  東京都国分寺市富士本1-11-40
  TEL&FAX 042(577)0738

イラスト:Googleイラスト・フリーより

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