【孔雀船98号 詩】うつぶせの春 望月苑巳
更新日:2021年7月31日
うつぶせの春がまたやってきた
顔を上げて見ることが出来ない
不条理に包まれた春だ
そこには上書きされた町がある
遠くに港を出てゆく漁船の幻
水平線には拳を振り上げた真っ黒い海坊主
岸壁でゆりかもめが歌っている
それを追う猫も
猫を追う子供らも
魔法のように
その日、消えた
上書きされる前の町を
もう忘れかかっているという自己嫌悪が
記憶の海に浮かぶ
もがく家並み
慈悲を忘れた神のいたずらかとも思う
などとはいうまい
そんな薄っぺらい形容詞では言い表せないのだから
人知を超えた歴史のデザイン変更が終わり
上書きされた町には
猫もゆりかもめも
子供らの笑顔も戻ってはこない
それらは偽りの幻の町だから
まだ何も終わっていない
まだ何も始まっていない
うつぶせの春がまたやってきた
PDF縦書き うつぶせの春・望月苑・
【関連情報】
孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。
「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
発行責任者:望月苑巳
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TEL&FAX 042(577)0738
イラスト:Googleイラスト・フリーより