「寄稿・孔雀船93号」(詩誌) 桜印の殺人ナイフ 望月苑巳
更新日:2019年3月10日
赤ちゃんは白紙で生まれてくるから
泣き方が完璧なのだ
母に抱かれながら
乳首から思い切り吸い込む
見上げれば
へこんだ空に桜印
いつの間にか春になっている
明るい少年が
故郷を歌っている
時々暗くなって
時計回りにひねくれてしまったので
若返りの招待状を破って
貧相な大人になる
ナマ乾きの夢
つまみあげてポケットにしまう
ポケットの中で申し訳なさそうに
骨に擬態して
カラカラと鳴る
悲しい色で
大人になってこの色に染まったのか
手にはアーミーナイフが握られている
かつて赤ん坊だったころの
喜怒哀楽が
音階状にこみあげてくる
標的は
桜印の
自分自身
夕暮れの自分自身
イラスト:Googleイラスト・フリーより
【関連情報】
孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。
「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
発行責任者:望月苑巳
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