【孔雀船93】 痛いと言わない = 臺 洋子
更新日:2019年1月23日
目に見える擦り傷や切り傷なら
消毒をして絆創膏を探す
けれど
ふいに落ちて来た鋭い刃先が
胸の中をぐさりと刺しても
すぐに
痛いと言えない
きっと 見えない痛みは
「そんなこと」も処理できない
弱いものの証しだから
みんな 痛いと言わないのだから
そこから見る空は
たとえ瑠璃色に澄み切っていても
どこか狭苦しく くすんで見える
太陽は行く先を照らさない
ただ周囲を見渡すための照明のように
昼と夜を区別するだけ
コンピューターは痛いと言わない
ロボットは痛いと言わない
人前で
笑顔をつくりつづけ
長引く痛みの血だまりを隠しながら
不具合を起こさない鋼鉄の一員を装い
自分の居場所を守っている
イラスト:Googleイラスト・フリーより
【関連情報】
孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。
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