A040-寄稿・みんなの作品

【孔雀船93】  痛いと言わない =  臺 洋子

目に見える擦り傷や切り傷なら

消毒をして絆創膏を探す

けれど

心に刺さったままの棘や

ふいに落ちて来た鋭い刃先が

胸の中をぐさりと刺しても


すぐに

痛いと言えない


きっと 見えない痛みは

「そんなこと」も処理できない

弱いものの証しだから

みんな 痛いと言わないのだから


そこから見る空は

たとえ瑠璃色に澄み切っていても

どこか狭苦しく くすんで見える

太陽は行く先を照らさない

ただ周囲を見渡すための照明のように

昼と夜を区別するだけ


コンピューターは痛いと言わない

ロボットは痛いと言わない


人前で

笑顔をつくりつづけ

長引く痛みの血だまりを隠しながら

不具合を起こさない鋼鉄の一員を装い

自分の居場所を守っている


痛いと言わない 縦書き PDF


    イラスト:Googleイラスト・フリーより


【関連情報】

孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。

「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
発行責任者:望月苑巳

〒185-0031
東京都国分寺市富士本1-11-40
TEL&FAX 042(577)0738

「寄稿・みんなの作品」トップへ戻る