寄稿・みんなの作品

【孔雀船Vol.92】 水とりんご=紫 圭子

水の朝

朝の水

昇ってくる太陽

水に時間はあるのだろうか


塩漬けされたりんごは腐らない


幼年の日

祖母の家

水は山の湧き水をパイプで取っていた

水の湧く場所へ登るのがすきだった

初夏の水が音をたてて光っているなかへ

りんごを放すのがすきだった

海辺に住む幼な子は

湧き水のなかに

水平線から昇る太陽そっくりなりんごを見る

りんごをかじって 太陽をかじって

ヤッホー!

山の峰に木霊する声を両手でつかまえて草のうえを転げた


りんごは食べてしまったけれど

水はどうなったの


りんごをつつんだ水

いっしゅん、かたちを脱いで

また別のかたちをつつみにでかけたの


朝の水

手をぬらして過ぎていく

わたくしの手をつぎつぎに包み破って

水の朝は昇ってくる


昇ってきたものは

塩漬けしておいたりんごのもとへかえってゆくだろう


りんごのなかに太陽が入って

太陽のなかにりんごが入って


目を見開くと無数の光る微粒子が

蛍みたいにチカチカ

顕微鏡でのぞいた精子みたいにチカチカ

くうかんをおよいでいるのが見える


純化していく

湧き水に似た宇宙大海

みずが くうかんが

塩漬けされたりんご

記憶を呼び覚ます



【関連情報】

孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。

「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
発行責任者:望月苑巳

〒185-0031
東京都国分寺市富士本1-11-40
TEL&FAX 042(577)0738


イラスト:Googleイラスト・フリーより

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