寄稿・みんなの作品

【孔雀船Vol.92】 さくらいろにそまれ廃墟=船越素子

  さくらいろにそまれ廃墟

     新宿梁山泊「少女都市からの呼び声」2018・3・26へ寄せて

                                  船越素子

廃墟のように生きてきたので

そういって帽子をとり会釈する男に

見覚えはなかったが

でらしねのひとだろうか

かすかに古めかしい匂いもする

そのノスタルジアは涙をさそう

胸と石畳に彫り込もうとした

若くて無謀なわたしの記憶を

あなたは空中で抱きとめた

人はノスタルジアで死ぬのですよ

焦がれる思いが胸を突き破る

丸の内三号館 秘密の花園前にて下車

ゴム引きコートの裾翻し

あなたと呼ばれる男が消えていく


都心の一等地のまぼろしの廃墟で

果てしない土地転がしのその先の先へ

スカラベ・サクレの相似・相反性を

いつかはあなたと語りあいたいから

ファーブル『昆虫記』をひもとき

ランチボックスをひろげ

昼の時間を 笑いさざめいていたのだ


気づきもしないだろう

あの中庭のマロニエと

出会ったときにはもう 

恋におちていたということ

樹の根はいのちだから

ガラスの子宮が砕け散っても

密やかな作業が繰り返されること


それからは害虫駆除も剪定も

砂粒のような日々を労働にかえた

地下茎が繰りひろげる

不思議な挨拶の作法が

わたしの身体奥深くに棲みつき

さくらいろのガラス玉が廃墟を埋めつくす

いつしか瓦礫のむこうから

吹き荒ぶ行軍の気配が たしかに近づいてくる


【関連情報】

孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。

「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
発行責任者:望月苑巳

〒185-0031
東京都国分寺市富士本1-11-40
TEL&FAX 042(577)0738


イラスト:Googleイラスト・フリーより

「寄稿・みんなの作品」トップへ戻る