A040-寄稿・みんなの作品

【寄稿・(孔雀船)詩集より】 浅草暮れ六つ考 = 高島清子

暮れ六つ刻には

ゆうらりと風呂にお入りになる

詩人菊田守氏のスナック「暮れ六つ」とは

少し異なる話である



浅草仲見世通り

浅草寺寄りの裏の「暮れ六つ」は

好事家の店主が凝り倒して開いたと思しき

江戸趣味の店であった

そこにフランス帰りの生臭坊主の招きで

面白半分で行ったことがある

草茫々にした小庭の石灯籠

踏み石を四つ五つ渡ると

入口の破れ障子に行灯のあかりが映る

廃屋から収集した調度のオンパレード

蜘蛛の巣 戸棚 板の間の軋む板だが

それにけ躓くような年配は来ない


このたよりない明るさの安堵感

緊張の角が外れて行く仕組みとで

ひととき江戸人となって御酒をいただいた

後の夕べには美男を誘い

お銚子二本とお造りと賀茂茄子の炊き合わせで2万6千円也と

五玉算盤を弾くのである

おしゃれ過ぎるわぁと呆れたが

次に訪ねたら閉店の紙が破れ戸板に一枚

余りの洒落に倒れたのか

きのう20年ぶりで浅草寺の帰りに覗いて見たら

まだ「暮れ六つ」は在ったが障子は閉まっていた

大川向うの方から春風と騒めきが吹いてくるというのに

いまだに知らぬ顔で客を帰し続けている

思わせぶりな店であった


浅草暮れ六つ考 高島清子 縦書PDF


【関連情報】

孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。

「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
発行責任者:望月苑巳

〒185-0031
東京都国分寺市富士本1-11-40
TEL&FAX 042(577)0738

「寄稿・みんなの作品」トップへ戻る