A040-寄稿・みんなの作品

【詩集『こんなもん』より】 どこへ = 坂多瑩子


大根を切っていると

窓ごしに

男がよぎっていった


風でとばされた

ぼうしを追っかけている赤毛の男だ

いるな

と思ったら

ぼうしのほうが

あたしのところにきて

水を一杯のんだ

これから旅にでるという

たしかにリボンのわきに切符をはさんでいる

ザーッアルマからノマロフ越えて

橋をわたって

ニェスニュススチック停車場から

ぼうしのくせにおしゃべりだ

聞き流しながら

里芋と人参を切って

鍋に湯をわかしていると

台所は湯気のあたりから暗くなりはじめた

夜になっちまった

ぼうしがいった


ずいぶん昔に

お土産って

大叔母さんがくれたグリーンの表紙の本

色の悪い花びらが舞っていて

ぼうしがあご髭をはやしていた

遠い夜のはずれで

赤毛男

ゆくえふめい

【関連情報】

どこへ  縦書き PDF


「こんなもん」 2016年9月30日発行 
         著者 坂多瑩子
         発行所 生き事書房 
              〒 151-0073
  東京都渋谷区笹塚3-45-4
              ☎ 03-3377-6168 

「寄稿・みんなの作品」トップへ戻る