【詩集『こんなもん』より】 どこへ = 坂多瑩子
更新日:2016年9月11日
窓ごしに
男がよぎっていった
風でとばされた
ぼうしを追っかけている赤毛の男だ
いるな
と思ったら
ぼうしのほうが
あたしのところにきて
水を一杯のんだ
これから旅にでるという
たしかにリボンのわきに切符をはさんでいる
ザーッアルマからノマロフ越えて
橋をわたって
ニェスニュススチック停車場から
ぼうしのくせにおしゃべりだ
聞き流しながら
里芋と人参を切って
鍋に湯をわかしていると
台所は湯気のあたりから暗くなりはじめた
夜になっちまった
ぼうしがいった
ずいぶん昔に
お土産って
大叔母さんがくれたグリーンの表紙の本
色の悪い花びらが舞っていて
ぼうしがあご髭をはやしていた
遠い夜のはずれで
赤毛男
ゆくえふめい
【関連情報】
「こんなもん」 2016年9月30日発行
著者 坂多瑩子
発行所 生き事書房
〒 151-0073
東京都渋谷区笹塚3-45-4
☎ 03-3377-6168