A040-寄稿・みんなの作品

【孔雀船88号】 台所の結界はどうして破れたか = 望月苑巳

時間には眠りという属性がない

猥雑と孤独が

ただぶらんこのように

うつつうつつ 繰り返すだけの混沌。


トーストが一枚

鋭角な食欲を焼き上げる

妻は目玉焼きを食べながら夕暮れている

台所の結界を踏み越えられない定家卿は

怒ってトーストを投げつけた

シチューに紛れ込んだトマトが

シニカルな笑いを浮かべている

踏み越えられたら戦火は収まるのに

一将功なりて万骨枯る、というわけか。

すると妻が反撃を開始する

仰いで天に愧(は)じず、俯して地に炸(は)じず、でしょう。


たじろぐほどに定家卿は袋小路を曲がる

猥雑が背を向き

いつの間にか孤独が上りがまちに佇んでいる

慌てた定家卿は結界をこじあけ台所に辿り着く

台所は人生の縮図である。


人生はコップの中の水に似ている

「半分しかない」と悲しむ人もいれば

「半分もある」と喜ぶ人もいる

欲と正直のまぜあわせ

水がこぼれた時どう身を処するかで

その人の価値が決まるのだと

いつぞや法師は錫を突いて喝破したな。


定家卿はふてくされて

鍋からこぼれ出た妻を

抱えたまま走りだす

どこへ? さらなる孤独へ?

【関連情報】

台所の結界はどうして破れたか 
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孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。

「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
発行責任者:望月苑巳

〒185-0031
東京都国分寺市富士本1-11-40
TEL&FAX 042(577)0738

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