【孔雀船88号より】 みづいろ = 浅山泰美
更新日:2016年8月19日
露に濡れた草ぐさの
まだうすぐらい小径を抜けて
あなたは
旅支度もそこそこに
ゆうべの灯りが
まだ点ったままになっている
ちいさな木の駅から
旅立とうとしていた
氷のようだった手足が
今は空気のように軽くあたたかいので
口笛のひとつも吹きたくなるではないか
そういえば
幼かった頃
一番好きだった色は
水色で
クレヨンはすぐに短くなっていったな
ふいに そんなことを思い出すのは
まだ明けきらぬ空の一角が
あまりにもうつくしい水色に変わりはじめたからか
もう引き返すことのできない小径に
朝の光が射しはじめるまで
影は影のまま
あなたがいなくなれば
あっさりと消えてしまう
この世界にも
モクレンは咲き 小鳥は歌う春はまた巡り来て
やがて
草に紛れた鏡のような
水色の記憶だけが
ひっそりとそこに残されるのだろう
【関連情報】
孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。
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