A040-寄稿・みんなの作品

【孔雀船88号より】 みづいろ = 浅山泰美


早春の朝ははやく

露に濡れた草ぐさの

まだうすぐらい小径を抜けて

あなたは

旅支度もそこそこに

ゆうべの灯りが

まだ点ったままになっている

ちいさな木の駅から

旅立とうとしていた


氷のようだった手足が

今は空気のように軽くあたたかいので

口笛のひとつも吹きたくなるではないか

そういえば

幼かった頃

一番好きだった色は

水色で

クレヨンはすぐに短くなっていったな

ふいに そんなことを思い出すのは

まだ明けきらぬ空の一角が

あまりにもうつくしい水色に変わりはじめたからか


もう引き返すことのできない小径に

朝の光が射しはじめるまで

影は影のまま

あなたがいなくなれば

あっさりと消えてしまう

この世界にも

モクレンは咲き 小鳥は歌う春はまた巡り来て

やがて

草に紛れた鏡のような

水色の記憶だけが

ひっそりとそこに残されるのだろう

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みづいろ 縦書き ・ PDF

孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。

「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
発行責任者:望月苑巳

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TEL&FAX 042(577)0738

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