A040-寄稿・みんなの作品

「孔雀船88号より」 まだ封じられないものの夜 = 吉貝甚蔵


消せない星は

あらかじめ失われている流星だろうか


森を抜けるためには木立の残像がいる

と 遊牧の民が告げる

砂塵に巻かれながら お前は

この広漠に水滴の走りを見るのか

さしずめ浦のうらぶれた苫屋に

失われた桜を見るように


むしろ通り雨に

砂漠の匂いを嗅ぐ


他人の夢を見ることはできない

と 夢を違えながら夢を語る

夢を売り買いするように

見るを交換する

お前によって夢見られたものが

私である証は傷になる


埋められたのは

季節をしるした文字であり


凍てつくのは発語に震えているからだ

震えているのは

言葉になりたがらない音たちか

音はすりぬける

言葉にはとどまらない だが

追いかけるのも言葉であり


出会うためには

夜をふるわせる星の音階が必要だ


それでも夢の形象が

眠りの先に表れるのなら

影はいつも眠りの背後に宿り

その影にも

お前の夢見た私が私の夢を差しだすのだ

他人の夢を生きるために


目覚めないのは

あらかじめ失われた眠りだからだ

封じられたものが

永遠だ などと思うには

砂も星も流れやすく

よぎるには時の懸崖は深すぎる だが

お前の夢の欠片たちを紡ぐ私の夢の欠片たちが

ざわめく


渡るのだ

記述の砂漠を


【関連情報】


まだ封じられないものの夜 : 縦書き ・ PDF


孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。

「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
発行責任者:望月苑巳

〒185-0031
東京都国分寺市富士本1-11-40
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